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2025/04/25

時事問題

熱中症対策の罰則付き義務化が施行!企業が押さえておくべき対策とポイント

熱中症対策の罰則付き義務化が施行!企業が押さえておくべき対策とポイント

近年の地球温暖化により、建設業(土木・建築業)をはじめとする多くの職場で熱中症リスクが高まっています。すでに多くの企業で水分・塩分補給や休憩の実施といった対策が取られていますが、熱中症に対する知識や対応が不十分なケースも多く、被害の深刻化が懸念されています。

 

こうした背景を受け、厚生労働省は2025年4月15日に「労働安全衛生規則」の一部を改正する省令を公布しました。これにより、2025年6月1日からは職場での熱中症対策が罰則付きで義務化されます。事業者への罰則は「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」となる予定です。企業には、暑さ指数の管理や熱中症予防教育、作業環境の改善といった積極的な対策が求められます。

 

建設会社が取り組むべき熱中症対策のポイントを詳しく解説します。適切な対応を取ることで、従業員の安全を確保し、労働災害の未然防止につなげましょう。

熱中症対策がこれまで以上に重視される理由

熱中症対策がこれまで以上に重視される理由

熱中症は死亡率が高い労働災害のひとつであり、適切な対策を講じなければさらなる被害の拡大が懸念されます。熱中症対策が義務化された背景として、以下の理由が挙げられます。

気候変動が引き起こす熱中症リスクの増大

地球温暖化の影響で、日本の夏の気温は年々上昇しています。一般財団法人日本気象協会の「気候変動と熱中症対策」によると、最高気温35℃以上の「猛暑日」はここ100年で2.3日ほど増加しており、屋外や高温環境での業務はますます危険な状況になっています。

 

さらに、地球温暖化の進行に伴って熱中症リスクは今後も高まり続けると予測されているため、企業や個人レベルでの対策がこれまで以上に重要になります。

熱中症の危険度を表す暑さ指数(WBGT)について
WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature

暑さ指数とは、熱中症の危険度を判断する数値です。環境省は2006年から暑さ指数の情報を提供しています。

 

暑さ指数は気温に加え、人間の熱バランスに影響の大きい湿度、そして輻射熱(ふくしゃねつ)による計測値を使って計算されます。輻射熱とは日差しを浴びたときに受ける熱や、地面、建物、人体などから出る熱で、湿度が高いほど影響が大きくなります。暑さ指数が28を超えると熱中症の発生率が急増するため、注意が必要です。

 

毎日の暑さ指数は、環境省の熱中症予防情報サイトの「熱中症特別警戒情報(熱中症特別アラート)・熱中症警戒情報(熱中症警戒アラート)」で確認できます。

 

【参考】環境省「熱中症予防情報サイト

日常生活に関する指針
暑さ指数(WBGT)注意すべき生活活動の目安注意事項
危険(31以上)すべての生活活動でおこる危険性高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。
厳重警戒(28以上31未満)外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する。
警戒(25以上28未満)中等度以上の生活活動でおこる危険性運動や激しい作業をする際は定期的に充分に休息を取り入れる。
注意(25未満)強い生活活動でおこる危険性一般に危険性は少ないが激しい運動や重労働時には発生する危険性がある。

日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針Ver.4」(2022)より改編

※日本生気象学会の承諾を得て、出典元の「WBGT」を「暑さ指数(WBGT)」とし、値を気温(単位は℃)と区別しやすいように、単位のない指数として表記しています

 

【出典】環境省 熱中症予防サイト|暑さ指数(WBGT)について

熱中症による被害の深刻化

厚生労働省の「職場における熱中症対策の強化について」によると、熱中症は、死亡災害に至る割合がその他の災害の5~6倍であり、その危険性は年々増しています。業務中の熱中症が原因で亡くなった方の数は、2023年には31人、2024年には30人にのぼりました。

 

2024年の熱中症による死亡災害の概要は、厚生労働省が発表した「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(令和7年1月7日時点速報値)」において、以下のように記されています。

・発症時・緊急時の措置の確認・周知していたことを確認できなかった:70%(21件)

・暑さ指数(WBGT)の把握を確認できなかった:86.7%(26 件)

・熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった: 50%(15 件)

・糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病や所見を有していることが明らかだった:60%(18 件)

熱中症による死傷災害の発生は、知識の不足や対応の遅れが原因であるケースが多く、現場における適切な対策の実施は必要不可欠です。

 

また、糖尿病や高血圧症など、熱中症を引き起こしやすくなる持病を抱えているケースが多かった点も、対策の検討において見逃せない部分です。

建設業は熱中症による死傷者が最も多い

建設業は熱中症による死傷者が最も多い

業種別の熱中症発生状況を見ると、2020年以降、建設業が最も多くの死傷者を出していることが分かります。特に、死亡者の約7割が屋外作業中であり、強い日差しや高温環境での作業が避けられない建設業は、熱中症のリスクが非常に高いと言えるでしょう。

 

特に高齢者は温度に対する感覚が鈍くなるため、高齢のフィールドワーカーを多く抱える建設業は熱中症のリスクがより高くなっています。

 

また、月別の統計では、死傷者の約8割が7月および8月に発生しています。時間別では15時台の発生が最も多く、次いで11時台の結果となりました。なお、日中の作業終了後に帰宅してから体調が悪化し、病院へ搬送されるケースも報告されています。作業中のみならず、作業後の体調管理も重要な課題となっています。

【2025年6月1日施行】熱中症対策義務化に関する法令

【2025年6月1日施行】熱中症対策義務化に関する法令

厚生労働省は2025年4月15日、熱中症対策を罰則付きで事業者の義務とする改正省令を公布しました。「職場における熱中症対策の強化について(その2)」によると、2025年6月1日からは、事業者には以下の熱中症対策が義務付けられます。

対象となる作業

WBGT(暑さ指数)28以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間以上の実施が見込まれる作業

企業に義務付けられる熱中症対策

① 「報告体制の整備」

② 「実施手順の作成」

③ 「関係労働者への周知」

なお、対策を怠った場合の罰則として「6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」が予定されています。

 

対策を怠ると罰則が科されるだけでなく、コンプライアンスを軽視する企業であると社会から認識され、今後の採用活動にも影響が出る恐れがあります。人手不足が深刻化する建設業において、採用活動への悪影響は絶対に避けなければなりません。

 

また、対象となる作業で熱中症が疑われる労働者が発生した場合には、WBGT値や作業時間などにかかわらず、実施手順を踏まえた適切な対処を行う必要があります。

建設業における熱中症対策

建設業における熱中症対策

建設業のフィールドワーカー(現場従事者)は、暑さや直射日光の影響を受けやすく、熱中症のリスクが非常に高い環境下に置かれています。建設会社は従業員を熱中症から守るために、報告体制の整備や対応手順の確立、継続的な周知活動といった対策が不可欠です。

建設会社の熱中症対策① 報告体制の整備
報告体制の整備

熱中症のリスクをいち早く察知し、適切な対応ができるよう報告体制を整備することが求められます。熱中症の恐れがあるフィールドワーカー本人、または熱中症と思しきフィールドワーカーを見つけた人が、速やかに報告できる体制を整えましょう。

 

以下は、国が義務として定めているわけではありませんが、体制整備の一例として参考にしてください。

報告ルートの明確化

フィールドワーカーが「誰に」「どのように報告すればよいか」を把握できていない場合、初動対応が遅れる恐れがあります。現場のリーダーや安全管理担当者を報告先として指定・共有し、緊急連絡先を全従業員に周知しましょう。

ウェアラブルデバイスの導入

熱中症は自覚症状が出にくく、気づいたときにはすでに重症化しているケースも珍しくありません。特に、フィールドワーカー同士が離れて作業を行う現場では、ほかの人の異変に気づくのが遅れたり、自身の体調不良の報告をためらったりする場合もあるでしょう。

 

そこでおすすめしたいのが、ウェアラブルデバイスです。リストバンドやヘルメット型のデバイスに搭載されたセンサーが、生体情報をモニタリングし、可視化します。これにより、体温や心拍数の異常を検知した際は、管理者や本人にアラート通知が行われます。

建設会社の熱中症対策② 実施手順の作成
実施手順の作成

体調不良者が出た際に迅速に対応できるよう、あらかじめ「誰が」「どのように対応するか」を決めておくことも重要です。以下の応急処置や取り組みを通じて重症化を防ぎ、現場の安全性向上に努めましょう。

応急処置の3つのポイント

・まずは涼しい場所へ移動

・衣服を脱がし、体を冷やして体温を下げる

・塩分や水分の補給

安全性向上のための取り組み例

・広い現場では、救護エリアを事前に設置

・緊急時の対応訓練を定期的に実施

・救護方法や搬送手段を統一し、スムーズな対応を実現

【参考】一般財団法人日本気象協会「熱中症ゼロへ│熱中症について学ぼう:応急処置のポイント

建設会社の熱中症対策③ 関係労働者への周知
関係労働者への周知

熱中症対策は「知っている」だけでは不十分で、実際に行動に移すことが重要です。そのためには、継続的な周知や啓発活動が欠かせません。

朝礼やミーティングでの定期的な注意喚起

多くの建設現場では、作業前の朝礼やミーティングが習慣化されているため、その場で熱中症対策の情報共有や各種チェックを実施するのが効果的です。

実施例

・熱中症アラートの共有:気象庁の「熱中症警戒アラート」などを活用

・「健康KY」の確認:「昨日の睡眠は十分か」「朝ごはんを食べたか」などの声がけ

 

【参考】建設業労働災害防止協会(建災防)「建災防方式健康KYと無記名ストレスチェック

ポスター・ステッカー・デジタル掲示の活用

現場の詰所や休憩所、トイレの近くなど、人目に付きやすい場所に熱中症予防のポスターやステッカーを貼り、意識付けるのも効果的な取り組みです。

掲示する内容の例

・「のどが渇く前に水を飲もう!」

・「1時間ごとに5分間の休憩を!」

・熱中症の初期症状チェックリスト(めまい、頭痛、吐き気など)

環境省が発表している、熱中症対策のリーフレットを掲示するのもおすすめです。環境省のサイトで各種PDFをダウンロードできるため、参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

【参考】環境省「報道発表資料

熱中症対策の研修・訓練を実施

熱中症に関する勉強会や研修を定期的に開催し、フィールドワーカーが知識を深める機会を設けることも重要です。特に、経験の浅い新人や若手フィールドワーカーは「どのタイミングで休むべきか」「どのような症状が危険なのか」などを判断しにくいため、定期的な学習機会が必要と言えるでしょう。

研修の内容例

・熱中症のメカニズム(体温調節の仕組み、なぜ危険なのか)

・初期症状の見分け方と対処法

・緊急時の対応(意識を失った場合の救助手順など)

また、実際に現場で発生した事例を共有するのも効果的です。「去年、この現場で熱中症になった人がいた」といったエピソードを交えて話すと、より危機意識を高められるでしょう。

家族・関係者への働きかけ

フィールドワーカー本人だけでなく、家族にも熱中症対策の重要性を伝えることで、より効果的な予防につながります。フィールドワーカーの家族向けに「熱中症対策のしおり」 「家庭でできる体調管理のポイント」などの資料を提供すれば、家庭内でも対策が習慣化しやすくなるでしょう。

建設会社から家族に向けたメッセージ例

「朝ごはんをしっかり食べるように声をかけましょう」

「帰宅後は体調を確認し、無理をしないようサポートを」

「夜間の睡眠環境を整え、翌日に疲れを持ち越さないように」

汗によって失われる水分や塩分を朝食であらかじめ摂ることは、熱中症を防ぐ体づくりにつながります。武生労働基準監督署の「熱中症を防ごう!!」では、過去の熱中症による死亡者は、共通して朝食を食べていなかったとの報告が上がっています。

 

このような体調管理にまつわる周知・啓発を徹底することで、日頃からの意識が高まり、熱中症発生リスクの低減が期待できます。

適切な熱中症対策で従業員の健康と命を守る

企業に対する熱中症対策の義務化は、2025年6月1日から施行されます。屋外作業が多い建設業では、適切な対策がフィールドワーカーの命を守る鍵となります。報告体制の整備や緊急対応フローの明確化、周知・啓発活動の強化など、具体的な対策を早急に進める必要があります。

 

少子高齢化の進展によって、どの業界でも人手不足が深刻化していますが、建設業はその傾向がより顕著です。体温調整機能の低下ならびに暑さを感じにくくなることから、高齢のフィールドワーカーは熱中症にかかりやすくなっています。

 

業務中の熱中症は、適切な対策を取れば防げる労働災害です。法令を順守するだけでなく、建設業において重要な地位を占める高齢フィールドワーカーを守る意味でも、万全の対策を講じましょう。

涌井社会保険労務士 涌井好文 氏

監修者 涌井好文(わくいよしふみ)

涌井社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士

 

2014年より神奈川県で社会保険労務士として開業登録を行い、以後地域における企業の人事労務や給与計算のアドバイザーとして活動を行う。また、社労士としての経験や労働安全衛生法の知識をもとに、職場における安全についても、周知・啓発を行い、働きやすく安全な職場環境の整備に努めている。

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    時事問題

ニュース

イベント

Start Date
2025/06/18
End Date
2025/06/21
Event Details

日程:2025年6月18日(水) - 2025年6月21日 (土)

会場:幕張メッセ 1~6ホール・屋外展示場・屋外展示場ANNEX

主催:国際 建設・測量展 実行委員会

Tag
  • 展示会
  • 来場型
  • 土木
  • 建築
  • 測量
URL
/content/topcon-pa/jp/ja/events/2025/cspi-expo-2025.html
Target
_self
Start Date
2025/04/09
End Date
2025/04/10
Event Details

イノベーションを実現するTech&Solutions

日程:2025年4月9日(水)9:30 ~ 17:00、10日(木)9:00 ~ 16:00

会場:アクセスサッポロ(北海道札幌市)

主催:株式会社岩崎

Tag
  • 測量
  • 土木
  • 建築
  • 展示会
  • 来場型
URL
https://fair.iwasakinet.co.jp/itsf2025/
Target
_blank
Start Date
2025/04/08
End Date
2025/04/09
Event Details

日程:2025年4月8日(火)9日(水)9:30 ~ 17:00

会場:福岡国際センター(福岡県福岡市)

主催:株式会社水上洋行

Tag
  • 測量
  • 土木
  • 展示会
  • 来場型
URL
https://mizukami-abroad.co.jp/dxfair/
Target
_blank

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