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2025/10/06

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『ICT施工StageⅡ試行工事の検証報告』~施工データの活用とボトルネックの考察~

『ICT施工StageⅡ試行工事の検証報告』~施工データの活用とボトルネックの考察~

トプコンは、2025年6月18日〜21日の4日間、幕張メッセで開催された「第7回 国際 建設・測量展(CSPI-EXPO 2025)」に出展しました。

 

このイベントは、建設・測量業界の課題解決や生産性向上を目的として開催されており、建設作業機械・安全資材・通信機器など、さまざまな技術やソリューションに触れられるのが大きな特徴です。

 

トプコンは、展示ブースにて最新機器やソリューションを出展したほか、特別セミナーにて「『ICT施工StageⅡ試行工事の検証報告』~施工データの活用とボトルネックの考察~」と題し講演。国土交通省が提唱する「i-Construction 2.0」や「ICT施工StageⅡ」の概要、そしてダム試行工事における取り組みや分析結果を発表しました。

 

本記事では、そのセミナーについて紹介します。

国土交通省が提唱する「i-Construction」とは?

国土交通省が提唱する「i-Construction」とは?

国土交通省が提唱する「i-Construction」とは、建設現場の生産性向上や業務プロセス改善を目的とした取り組みです。また、今後の人口減少に対応するため、さらなる省人化を目指す「i-Construction 2.0」という新たな取り組みもスタートしています。

 

「i-Construction 2.0」の目標は、2040年度までに建設現場の省人化を最低でも3割進め、生産性を1.5倍向上させることです。この目標を達成するため、以下3つの取り組みが掲げられています。

  • 施工のオートメーション化

  • データ連携のオートメーション化

  • 施工管理のオートメーション化

少ない人数で建設工事を進める上で、現場のオートメーション化は欠かせません。建設現場に関わるフィールドワーカー(現場従事者)が安全かつ快適に働けるよう、さまざまな技術を活用してオートメーション化を進めることが「i-Construction 2.0」の基本的な考え方です。

建設現場の見える化・デジタル化を進める「ICT施工StageⅡ」

建設現場の見える化・デジタル化を進める「ICT施工 StageⅡ」

ICT施工StageⅡ」とは、クラウドやAIなど、ICT(情報通信技術)を活用して建設現場の情報をリアルタイムに見える化し、省人化や業務効率化を図る取り組みのことです。先ほど紹介した「i-Construction 2.0」の中でも、ICT施工は施工のオートメーション化を進める上で重要視されています。

 

ICT施工では、以下のような幅広いデータをリアルタイムに集約して活用します。

  • 建設機械の稼働状況

  • 運搬車両の位置情報

  • 測量データ

  • 施工履歴

ICT施工を実施すれば、例えば、レーザースキャナーで測量したデータをもとに地形を3Dで表現したり、ダンプの運行状況をリアルタイムに把握して台数を調整したりすることも可能です。

 

このように建設現場の省人化につながるICT施工を普及させるため、国土交通省はいくつかの試行工事を実施して、新技術の導入による効果の検証や、施工データプラットフォームの構築を進めています。

「松川ダム生産性調査プロジェクト」について

ここからは、具体的な取り組みと検証内容を紹介します。「松川ダム生産性調査プロジェクト」は国土交通省からの発注ではありませんが、試行工事の目的に合致するものとして同省に提案し、アドバイスを受けながら実施されたプロジェクトです。

「松川ダム生産性調査プロジェクト」について
プロジェクトの概要

松川ダムは、長野県飯田市上飯田にある重力式コンクリートダムで、1975年に竣工しました。このダムには上流から土砂が流れ込み、貯水量が減ってしまうため、経年的に土砂を排出する必要があります。

 

今回の工事概要は以下の通りです。

  • ダム湖底掘削

  • 土砂の場内運搬・場外搬出

  • 曝気

  • 整地

まず、ICT建機を使って掘削した土砂を場内の仮置き場に運搬し、曝気(ばっき)を行います。その後、土砂を場外搬出し、搬出先で盛土工事を実施します。

 

工事は下表のように3工区に分けて進められました。

工区施工業者主な作業内容
1工区

神稲建設

掘削工・場内運搬・場外運搬

2工区

木下建設

場外運搬・盛土工

3工区

三六組

掘削工・場内運搬・場外運搬

「松川ダム生産性調査プロジェクト」各工区
具体的な検証項目

今回のプロジェクトでは、国土交通省による「データ活用による現場マネジメントに関する実施要領(案)」を参考に、以下4つの項目について検証しました。

  1. 施工履歴データクラウドによる進捗管理
  2. ダンプ運行管理システムによるリアルタイム車両データの活用
  3. デジタルデータ一元管理 / 関係者間のデータ共有
  4. バケットスケールによる運搬土量検収

ICT建機を使用して施工履歴データをクラウド上に集約するなど、積極的にICTを活用して、その効果や課題を検証することが本プロジェクトの大きな目的です。

「松川ダム生産性調査プロジェクト」の検証結果

ここからは、4つの検証項目ごとに結果を紹介します。

1. 施工履歴データクラウドによる進捗管理

本プロジェクトでは、ICT建機から取得した施工履歴データをクラウド管理システムSiteNow(開発中)で表示し、進捗管理を行いました。主な結果は以下の通りです。

  • クラウド上に日々の進捗や出来形が自動的に表示されるため、人工をかけて測量する必要がなくなった(通常は約2人工/月かかる)
  • 状況を正確に把握できるため、ダンプ台数の増減など、段取り替えがスムーズになった
  • 施工履歴データを自動収集できるため、報告資料作成の手間が少なくなった
  • 過去のデータを遡れるため、途中で土砂が流れ込んだ場合などでも、工事の実績を証明できた
  • 若手スタッフでも現場の状況を客観的に把握できた
施工履歴データクラウドによる進捗管理
2. ダンプ運行管理システムによるリアルタイム車両データの活用

ダンプ運行管理システムを活用したことで、土砂の搬出状況をリアルタイムに把握できました。その他の結果は以下の通りです。

  • 次の車両が到着するまでの時間を把握できるため、到着までに別の作業をするなど、隙間時間を有効活用できた

  • 危険運転通報時の確認が可能となり、安全性が向上した

  • 現場の状況に合わせて台数を最適化できた

ダンプ運行管理システムによるリアルタイム車両データの活用
3. デジタルデータ一元管理 / 関係者間のデータ共有

デジタルデータの一元管理については、以下のような結果を得られました。

  • 発注者・受注者ともに、現場全体の状況をクラウド上で把握できた

  • わざわざ現場を見に行く必要がなくなった

  • 隣接工区と協議するときにデータをもとに話せた

デジタルデータ一元管理 / 関係者間のデータ共有
4. バケットスケールによる運搬土量検収

一般的に、運搬土量の出来高は車両運搬回数によって把握します。しかし、今回はバケットスケールで出来高を把握できるかどうかを検証しました。

 

具体的には、レーザースキャナーで測定したデータを基準として、バケットの重量による測定データと比較し、どの程度の差があるかを確認しています。結論として、基準との差は「-3.4%」であり、バケットスケールの精度は問題ないことが分かりました。

 

ただし、バケットスケールの数値を読み取って足し算するだけでは、正確な結果を得られません。掘削する場所ごとに異なる含水比を確認する作業をはじめ、正確な結果を得る上では日々の細かなチェックが重要です。

バケットスケールによる運搬土量検収

「松川ダム生産性調査プロジェクト」の課題

ここまで紹介したように、ICT施工にはさまざまなメリットがありますが、同時に以下のような課題やボトルネックも判明しました。

データの取りまとめに時間がかかる

便利なツールやシステムを導入しても、データの取りまとめにはある程度の時間がかかります。複数のデータを取り扱うと、それぞれのフォーマットが異なり、形式の統一に時間がかかるケースもあります。

 

そのため、今後ICT施工を普及させていくためには、統一のフォーマットを準備することが重要です。データの共通化により「ICT施工StageⅡ」で重要視されているデータ連携やデータ活用がうまく進み、現場の手間がより少なくなると考えられます。

正しくデータを取得するための準備が必要となる

システムを導入するだけで、正しいデータをすぐに取得できるわけではありません。データを取得するためには、事前の設定や調整、キャリブレーションなどが必要です。しっかりと準備しないと、必要なデータを取得できなかったり、その後の手間が増えたりするケースもあります。

システムに馴染むまでに時間がかかる

新しいシステムやデジタルデータに慣れるまでに時間がかかる点も、課題のひとつとして挙げられるでしょう。従来の作業環境から大きく変化することに抵抗感があったり、システムの正しい使い方やデータの活用方法がよくわからなかったりする人は、決して少なくありません。

 

このような人をサポートしながらICT施工を浸透させていくためには、受注者・発注者ともに教育体制を整え、デジタル人材を育成していくことが大切です。

費用がかかる

新しいシステムを導入するためには費用がかかります。機器をレンタルする場合は、工事の遅延が発生した際に費用が増えるケースも考えられます。

 

ICT施工を普及させるためには、コストに見合ったメリットを業界として提示していくことが重要です。

「松川ダム生産性調査プロジェクト」より得られたデータと今後の展望

今回の検証から得られた概算の数値をもとに、アナログ施工とICT施工を比較しました。

「松川ダム生産性調査プロジェクト」のまとめ

費用については、アナログ施工とICT施工で大きな差はありません。現場によっては、ICT施工のほうが費用が高くなる可能性もあります。

 

人工については、ICT施工によって大幅に削減できたことが分かります。今回のケースでは、システムの導入によって人間が行う作業が減り、省人化につながったと考えられます。

 

一方で、松川ダム生産性調査プロジェクトを通して、ICT施工には以下のような課題があることも判明しました。

  • 現場のデータ疲れ・DX疲れ
  • データ処理の手間
  • データ活用に関する悩み

DXやデータ活用はもちろん重要ですが、現場代理人は建設工事そのものに注力しなければなりません。手間のかかる定型的な作業を自動化し、現場にじっくりと向き合える時間を確保するなど、システムとうまく付き合っていくことが大切です。

 

また、新しい機器を導入するだけで、作業を効率化できるとは限りません。トプコンとしては、今後も作業現場を効率化するICT機器やツールを提供し続け、皆様の現場をサポートしていきたいと考えています。

 

※ このセミナーの様子は、CSPI公式YouTubeチャンネルで公開されています。詳しく知りたい方は、ぜひYouTubeでご覧ください。

【CSPI-EXPO 2025】トプコン スマートインフラ事業本部 直轄国内営業部 主査 本田 肇【ICT施工StageⅡ試行工事の検証報告 施工データの活用とボトルネックの考察】

あわせて、松川ダム生産性調査プロジェクトについて紹介した動画もご覧ください。

松川ダム生産性調査プロジェクト

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ニュース

イベント

Start Date
2025/10/15
End Date
2025/10/17
Event Details

日程:2025年10月15日(水)16日(木)17日(金)10:00~17:00

会場:神戸トレーニングセンタ(兵庫県神戸市)

参加費:無料(事前予約制・先着順)

主催:株式会社トプコンソキアポジショニングジャパン

 

お申込みはこちらから▶

Tag
  • 体験会
  • 来場型
  • 建築
URL
/content/topcon-pa/jp/ja/events/2025/bc-hands-on-kobe-1015-1017.html
Target
_self
Start Date
2025/09/26
End Date
2025/09/26
Event Details

日程:2025年9月26日(金)10:00~16:00

会場:川崎市コンベンションホールA(神奈川県川崎市)

主催:株式会社トプコンソキアポジショニングジャパン

協賛:KENTEM(株式会社建設システム)、福井コンピュータ株式会社

Tag
  • 展示会
  • セミナー
  • CPDS認定
  • 来場型
  • 測量
  • 土木
URL
/content/topcon-pa/jp/ja/events/2025/tpjfair-2025-kawasaki.html
Target
_self
Start Date
2025/09/12
End Date
2025/09/12
Event Details

日程:2025年9月12日(金)10:00~17:00

会場:福岡商工会議所 会議室 B1-C(福岡県福岡市)

参加費:無料(事前予約制・先着順)

主催:株式会社トプコンソキアポジショニングジャパン

 

お申込みはこちらから▶

Tag
  • 体験会
  • 来場型
  • 建築
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/content/dam/topcon-pa/jp/ja/event/2025/rakuichi-minidemo/rakuichi-minidemo-Sep-fukuoka-housing.pdf
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